家族の愛情で育った大山黒牛

和牛オリンピックと呼ばれる「全国和牛能力共進会」で肉質を評価される肉牛の部で金賞を受賞した「大山黒牛」。

赤と白のコントラスト、白い美しいサシ。とても貴重な大山黒牛。地元の人でもまだ食べたことのない人もいる貴重な黒牛です。

今回は大山黒牛を育て、黒牛を使った焼肉屋など経営する西田さんご夫妻の牛舎にお邪魔しました。

西田牧場は緑に囲まれ、車もほとんど通らない静かな場所。

大山黒牛自然牧場は標高120メートルほどの大山の山ろくにあります。大自然に囲まれ、夏でも涼しく、美味しい水に恵まれています。

「牛は敏感でとても繊細な生き物。綺麗な牛舎で、ストレスを感じさせずのびのびと育てんと。」というのは大山黒牛の代表の西田佳樹さん。西田さんは子供の頃から牛が大好きで、家の牛舎でよく遊んでいたそう。

「うちの牛には全部名前がついとるけん。これが『佐藤さん』で…」と教えてくれました。一頭、一頭、名前をつけている西田さん。中には白鵬などユニークな名前の黒牛もいます。

私は黒牛を見たのは西田さんの牧場が初めてです。美しく輝く漆黒の毛に、澄んだ瞳。黒牛の美しさに驚きました。「かわいい・・・そして綺麗ですね。」とため息を漏らすと西田さんは言います。

「きれいじゃろ?美味しいご飯を食べさせて、たくさん話しかけて、可愛がって育てちょるけんね。だから美味しい肉になる。」

西田さんは本当に牛が好きで好きでたまらないというのが会話の端々に漏れ伝わってきます。

牛一頭一頭に優しく語りかける西田さん

「この牛たちの幸せは美味しい肉になって人間に食べてもらうこと。」と西田さんは真剣な眼差しで続けます。「だから僕の一番辛いことは、食べてもらえずに牛が死んでしまうこと。」

これは今回の取材で一番印象に残った言葉でした。それを奥様の菜々子さんに伝えると、「私もその言葉、印象に残りました。」と言います。

奥様の菜々子さんは西田牧場に嫁いで数年、2歳になる娘さんの子育てをしながら西田さんの仕事を手伝っています。

もともとは建設会社で働かれていた菜々子さん。牛飼いの仕事は全くどんなものなのかも知らなかったそう。

「役に立ってるかはわかりませんが、牛を育てるということが私にもまだ未知の世界です。だからこそ、消費者さんや一般の人と同じ目線で牛のことを知りたいと思えるし、わかりやすく説明できること、発信できることがあると思ってやっています。」菜々子さんは牛の世話はもちろん、SNSなどで牛飼いの生活や大山黒牛にまつわることを発信し、多くの人に「大山黒牛」を知ってもらえるよう日々精力的に活動しています。

絵が得意な菜々子さん。可愛いイラストで発信さる大山黒牛の情報は大好評。

「牛を肉にして食べる、その前に育ててる人がいる、そして捌く人もいる。なんて結婚前には深く考えたことがなかったです。」と菜々子さんが紹介してくれたのは一冊の本。『焼肉を食べる前に』。命と真摯に向き合い、愛情深く育てている西田さんの姿を見ながら、自分自身も命をいただくということ、牛を育てるということなど考えることが多いそう。

「子育てをしていると休みのない牛飼いの仕事は大変だなと思います。でも娘も一緒に牛の世話をしたり家族で働くのは楽しいです。たまに牛の世話じゃなくて家族で出かけたいって思うときもありますよ」と笑う菜々子さん。「菜々子さんは子沢山のうちに嫁いだんですね。」と私が相槌を打つと、はにかみながら「そうですね。確かに!」と優しく笑う菜々子さんの表情は牛たちの素敵なお母さんの顔。愛情深く育った黒牛たち。美しい大山の恵みだけではなく、西田さん家族の愛がたくさん詰まった黒牛たち。愛情深い味をぜひお楽しみください。

 

【ここで食べられます】

強小亭
米子市角盤町1-60-11
0859-30-2829
17:00〜23:00(日曜定休)